師範養成科修了生(60代)の体験談

●師範養成科2年間を振り返って

■はじめに

 師範養成科で過ごした2年間は本当に充実した有意義なものでした。それまでの私は趣味らしい趣味をもつわけでもなく、ただただ仕事優先で過ごしてまいりました。60歳で定年を迎え、これまでの人生を支えてくれた仕事がなくなり、現役とは異なる職場で第二の人生を踏み出したものの、何か空虚感を抱きながらの毎日でした。そんな時に出会ったのが本校でした。私は書道の全くの初心者であり、しかも生来の悪筆であったことから、文字を書くことに対してずっとコンプレックスを抱いておりました。そんな私が書道を習おうと思ったのですから不思議です。

 師範養成科は競書のほか法帖、実用書、漢字かなまじりと中身の濃いカリキュラムと展覧会への出品等とかなりタイトでしたが、先生方の懇切丁寧な指導の下、とても良好な雰囲気の中で他の生徒さん達とも和気あいあいと学習することができたのは、とても貴重な経験でした。

 次に師範養成科で特に印象に残ったことや受講内容等について述べさせていただきます。

■師範養成科で印象に残ったこと

(一)展覧会について

 私は師範養成科に入ってすぐに迎えた東京書作展を皮切りに、4回の展覧会に挑戦しました。その中でも特に印象に残っているのは、やはり最初に取り組んだ東京書作展でした。初めてお手本を手にした時の衝撃と戸惑いは、今も忘れることができません。全くの初心者であった私には、そのお手本がとてつもなく大きく、文字も難解で何をどうしてよいかわからず、これは大変なことになったという不安感に押しつぶされそうになりました。しかしながら、わからないなりにも先生方の指導の下、書き進めていくうちに次第に形になっていくことに喜びを覚えるようになり、悪戦苦闘の末、何とか作品の提出にこぎつけることができました。そして、拙いながらも東京都美術館で表装が施された自分の作品を初めて目にした時の感動は、おそらく一生忘れることができないと思います。この時の感動と高揚感が忘れられずに、その後3回の展覧会に出品し、先般の院内書作展では思いもかけなかった特選という大きな賞をいただきましたが、上位に入選された方々の作品を拝見するとスケールの大きさ、躍動感、潤滑の巧みさなどに目を奪われ、自分の未熟さと努力不足に恥じ入るばかりでした。

 今後、研究科に進んだ後も、展覧会への出品を通じて書道のレベルアップを図っていきたいと思います。

(二)蘭亭序全臨について

 私が師範養成科に入って間もないころ、先輩が大きな画仙紙に漢字をぎっしりと書き込んだものを先生に見てもらっている光景を目にし、その圧倒的な文字の多さもさることながら、実に整然と書かれているその見事さに驚かされました。まだその時は「蘭亭序全臨」の存在すら知らず、卒業前にはこんな大変なものを作り上げなければならないのかと思い、ちょっと不安になった思い出があります。

 後に、「蘭亭序」は書道を学ぶ者にとっては避けては通ることのできない全324文字で成り立っているものだということを知りました。そして、昨年の11月にいよいよその大変な作品に取り組むことになりました。324文字を全紙1枚にまとめると一言では済まされない大作です。まず下敷きを作り、1字の誤字脱字も許されない臨書です。しかも、事前のゼミナールで先生から一文字一文字細部にわたる教養があった後だけに、より慎重にならざるを得ず、1枚仕上げるのに体中の痛みと戦いながら半日を要する大作業でした。その甲斐があって、表装が施された「蘭亭序全臨」を手にした時の喜びはひとしおでした。今は我が家の床の間の掛け軸にして飾ってあります。本校事務局から届いた審査結果の中に「この作品は記念すべき労作です。ご自身の宝になるでしょう」のくだりがありましたが、まさにその通りです。一生の宝になりました。

(三)印象に残った講義

 平成30年10月に受講した本多先生の創作ゼミは特に印象に残っています。その中でもとりわけ、

〇真っ直ぐ書くのは面白くない、うねらせる。

〇右上がりにしない、右上がりにするとじが字が縦長になる。書家は横つぶれの字を書く人が多い。その方が格調高いものになる。

〇空間を意識して書く、文字を書きながら空間を書く。空いている部分を見えるようにする。

〇省略、画数を省略するために草書を使う。困ったときは草書を使って小さくまとめる。

〇下はなるべく空ける。下を空けるときは擦れさせると軽くなる。

〇主役になるもじ文字を2、3文字作る。生かす字と殺す字を考える。

〇1行目が薄いと2行目は黒くする。

等の講義内容は興味深いものでした。現状では、これらのことを頭では理解しても、それを実践するだけの能力や技量はありませんが、今後書道を続けていく上での道標にさせていただきたいと思います。

■おわりに

 これまで趣味らしい趣味を持つことなく第二の人生を迎え、何か人生の楽しみを見出したいという思いで始めた書道です。師範養成科の課程を終えるということは、やっと書道を始めるスタートラインにつくことができたということだと認識しています。

 六十の手習いで始めた書道をこれからも細く長く続け、人生を潤すための一助とすべく努力してまいりたいと思います。

日本教育書道芸術院 師範養成科修了生(60代男性)の体験談


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